これから宅建業をはじめるなら理解しておきたい「営業保証金の供託」

これから宅建業をはじめようとしている方ならすでに知っている、もしくは何となく聞いたことがあるかもしれませんが、宅建業をはじめるにはあらかじめ営業保証金を準備しければなりません。

この営業保証金は、一定額のお金をプールしておくことによって取引の相手方が損害を受けた場合に補填する役割があったり、無資力の者を宅建業界から排除して取引の安全を担保するという機能があるとされています。


今回はとりわけ、営業保証金の具体的な金額やどのように供託するかという営業保証金の仕組みにフォーカスして解説していきたいと思います。

まずは「供託」について理解しよう!

法務省が「供託」について次のように説明しています。

供託とは・・・

金銭、有価証券などを国家機関である供託所に提出して、その管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。

詳しい解説は省きますが、供託にもいろいろな種類があって、宅建業の供託は担保(保証)供託のうちの営業保証供託にあたります。これは営業者がその営業活動により生ずる債務ないし損害を担保するためにする供託のことです。

もっと簡単に言うと、本人に代わって供託所がお金を預かり、もしも取引相手に損害が生じた場合にその損害補填のために支出されるというものです。

供託所はどこにあるの?

供託を行う供託所は全国の法務局に設置されています。供託所は国の機関であって市役所など自治体の窓口ではないのでお間違いのないようにしてください。

宅建業ではどんなときに供託が必要になるのか?

ここから本題です。

宅建業で営業保証金の供託が必要になるのは次の2つのケースです。

供託が必要となるケース
  • 新規で宅建業をはじめるとき
  • 事務所を新設するとき
宅建業法25条1項

宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない。

宅建業法25条2項(抜粋)

営業保証金の額は、主たる事務所及びその他の事務所ごとに、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して、政令で定める額とする。

宅建業を営業する各事務所ごとに供託が必要であることが分かります。

営業保証金の額(政令で定める額)

営業保証金の額は次のとおりです。

宅建業施行令2条の4

営業保証金の額は、主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円の割合による金額の合計額とする。

区分 金額
主たる事務所 1,000万円
その他の事務所 500万円

例えば、本店が名古屋にあって支店が東京にある場合は、合計で1,500万円の営業保証金が必要になるということになります。

供託先は主たる営業所の最寄りの供託所

供託をする供託所は、主たる営業所の最寄りの供託所と定められています。例えば、本店が名古屋にあって支店が東京にある場合は、名古屋の本店の最寄りの法務局となります。

また、名古屋に営業所があって、新たに東京に支店を開設する場合においても供託先は本店の最寄りの法務局となります。つまり、供託先は1か所ということです。

供託は有価証券でもOK!

営業保証金というと、現金でなければならないと思われるかもしれませんが、一定の有価証券によって供託することもできます。

宅建業法25条3項(抜粋)

営業保証金は、国債証券、地方債証券その他の国土交通省令で定める有価証券をもって、これに充てることができる。

具体的には、次のような有価証券を供託することができます。

供託することができる有価証券の種類
  • 国債証券
  • 地方債証券
  • 国土交通大臣が指定した社債その他の債権

営業保証金として好ましくない有価証券

国土交通省は、営業保証金として有効な有価証券であっても、次のようなものは好ましくないものであるとしています。

好ましくない有価証券
  • 債権が時効によって消滅する時期の近いもの
  • 解散中の法人で特別清算中以外のものが発行したもの

これらの有価証券は、継続性が必要とされる営業保証金として好ましくなく、供託中の有価証券がこれらに該当する場合は、速やかに差し替えを求められることになります。

供託できる有価証券の価格

有価証券によっては、その額面100%を充てることができないものがありますので注意が必要です。

区分 額面に対する割合
国債証券 100%
地方債証券 90%
その他の債券 80%

いつまでも供託をしないと免許を取り消されることもある!?

宅建業免許を受けた日から3か月以内に供託が完了した届出をしないと、知事または国土交通大臣から届出をするよう催告を受けることになります。

宅建業法25条6項(抜粋)

国土交通大臣又は都道府県知事は、免許をした日から3月以内に宅地建物取引業者が届出をしないときは、その届出をすべき旨の催告をしなければならない。

この催告を受けてからさらに1か月以内に供託を済ませて届出をしないと免許を取り消されてしまう可能性がありますので注意が必要です。

宅建業法25条7項(抜粋)

国土交通大臣又は都道府県知事は、催告が到達した日から1月以内に宅地建物取引業者が届出をしないときは、その免許を取り消すことができる。

供託後でなければ営業を開始することはできない!

宅建業免許を受けたとしても営業保証金を供託した後でなければ営業を開始することはできません。

供託を済ませたかどうかは、供託所から交付される供託書のコピーを添付して、免許権者(知事or大臣)に届出をして確認することになります。

宅建業法25条4項

宅地建物取引業者は、営業保証金を供託したときは、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して、その旨をその免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。

宅建業法25条5項(抜粋)

宅地建物取引業者は、届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない。

これは、事務所を新設する場合も同じで、届出をした後でなければ新事務所の営業を開始することはできません。

供託の代わりに保証協会に入会することもできる!

営業保証金は少なくとも1,000万ですから、開業時からかなり大きな負担となってしまいますし、高すぎる参入障壁とも言えます。

そこで宅建業法では、供託の代わりに保証協会に入会して弁済業務保証金分担金を納付することで、営業保証金の供託義務を回避できる仕組みになっています。

宅建業法64条の13(抜粋)

宅地建物取引業保証協会の社員は、宅地建物取引業者が供託すべき営業保証金を供託することを要しない。

個人でお金をプールするか、会員がお金を持ち寄って備えるかという違いと考えていただけばイメージしやすいと思います。

保証協会の選択肢は2つ!

営業保証金の供託の代わりに入会できる保証協会は、ハトのマークの全国宅地建物取引業保証協会(全宅)、もしくはウサギのマークの全日本不動産協会(全日)となっています。

供託は免除されるが入会金と年会費は必要

保証か協会へ入会する場合、新規開業時の1,000万円の供託は回避できますが、保証協会の入会金は回避することはできません。ちなみに、詳しい説明は省きますが、いずれの協会に入会する場合でも180万円程度は入会時にかかります。

入会後でなければ営業を開始できない!

供託の場合と同じで、保証協会に入会した後でなければ宅建業を開始するはできません。実務的には、入会をした後でないと免許証が交付されないという流れになっています。

まとめ

いかがでしょうか?営業保証金について理解を深めていただけたでしょうか?

宅建業と似たような営業許可制度がある建設業とは違い、開業時にある程度の資金力が必要となるのが宅建業です。事実、新規開業する方のほとんどが保証協会を選択しているようです。

さすがにいきなり1,000万円を用立てることができる方は少ないと思いますが、すでに他の事業を行っている法人が宅建業に参入するような場合は供託を選ぶケースもあります。

保証協会は支払額自体は小さいものの、継続的に年会費がかかったり、役所のように各種手続きが発生するため、何十年も宅建業を続けていく法人は供託を選択してしまった方が後々楽かもしれません。

参考にしてみてください。