前回このサイトでは、宅建業の広告の内容に関する規制である「誇大広告等の禁止」について解説をしました。
宅建業の広告に関するルールはこれだけではありません。宅建業法には、広告の内容広告のタイミングに関する規制「広告の開始時期の制限」というものも存在しています。
これは、宅建業者が未完成の宅地や建物について売買などの広告をしようとする場合には、取引物件である宅地や建物について行う造成工事や建築工事に関して必要な一定の許可等を受けてからでなければ広告を開始してはならないというものです。
今回は、この「広告の開始時期の制限」について詳しく解説していきたいと思います。
宅建業を営んでいる方なら、自己の業務について「広告を出してみようかな?」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。もしくは、すでに広告を出しているという方もいらっしゃるかもしれません。 宅建業法では、宅地建物の取引や …
広告開始時期の制限
宅建業界では、マンション分譲や宅地造成の分譲において、「青田売り」を行うことが通例となっていて、宅建業法ではこの「青田売り」は禁止されていません。
一方で、都市計画法の許可、建築基準法の建築確認、その他法令に基づく許可等の処分がなされた時点以降でなければ、業務に関する広告を開始していけないことになっています。
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法の許可、建築基準法の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をしてはならない。
なお、建築基準法の確認には、変更の確認も含まれるとされています。
青田売り
青田売りとは、マンション分譲や造成宅地の分譲において、工事の完成前に売買契約を締結することです。
宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告
宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告とは、宅地や建物について業者が自ら当事者として売買や交換を行う旨の広告と、業者が当事者を代理して、または媒介を行って売買や交換、貸借を行う旨の広告をいいます。
制限の趣旨
なぜ広告の開始時期に制限が設けられているのか?
青田売りにおいては、販売の目的となる物件がまだ山林や農地であったり、更地のままであったりするわけで、当然その広告は出来上がりの図面や模型などで示して行われることになります。
しかし、広告で表示したとおりの物件が現実に完成して購入者の手元に入る保証はなく、実際は購入者が業者を信用して取引がなされるということになります。
このため、広告で表示されたものと現実にできあがったものとの間に途中で大幅な設計変更などがあって、大きな差が生じてくると、当事者間の紛争になるおそれがあるからです。
行政による許可等が済まされていれば、事業の実施のための計画が一応容認されたことを意味しますので、以降は少なくとも法律による設計変更が起こらないと考えられるため、この時点をもって広告が認められるというわけです。
工事が完了している物件について
工事が完了した宅地や建物であれば、売買のまでの間にさらに工事を行わないので、大幅な設計変更を生じたりする余地がすでになくなっており、たとえ完了検査の前であっても広告開始の制限は適用されません。
工事の完了の判断基準
国土交通省(旧建設省)の通知によると、工事が完了しているかどうかについては、本来の用途に従い直ちに使用できるに至っていいるか否か、建物であれば外観上の工事のみならず、内装等の工事が完了しており引き渡しが可能であるかどうかにより判断されるとされています。(建設省経動発第87号 S63.11.21)
変更の確認を提出している間の広告
建築基準法の確認を受けた後、変更の確認の申請書を建築主事に提出している期間において、当初の確認の内容で広告を継続することは差し使えないものとされています。
変更の確認の内容を広告してもよいのか?
当初の確認を受けた後、変更の確認の申請を建築主事へ提出している間、または提出を予定している場合においては、変更の確認を受ける予定である旨を表示し、かつ、当初の確認の内容もその広告に合わせて表示すれば、変更の確認の内容を広告しても差し支えないとされています。
また、建築確認を受けたプランと受けていないプランを併せて示すセレクトプラン方式においても、建築確認を受けていないプランについて変更の確認が必要である旨を表示すれば差し支えないものとされています。
予告広告について
広告時点で販売するという広告ではなく、販売予定時期を購入希望者に告知する予告広告は、設計変更などがされる可能性がある段階で購入者を誘因するおそれがあるため、広告の開始時期の制限が適用されます。
しかし、予告広告のなかでも開発許可、建築許可等を受けていないことを明示しており、かつ、具体的な形状、構造等を示さないものは、販売予定である旨明示した場合に限り規制の対象とならないとの例が示されています。(計宅業発21号 S47.7.22)
また、企業イメージの形成やその向上を図るための広告のように、直接に販売や販売予約につながらない抽象的なものであれば、広告の開始時期の制限は適用されないと考えられています。
しかし、具体的な所在地等を明らかにして将来そこで宅地を造成し建物を建築して、一般に売り出す予定であるというような広告は、規制の対象となると解されています。
違反に対する措置
広告開始時期の制限に違反した宅建業者に対しては、監督処分として指示を受ける可能性があります。
まとめ
いかがでしょうか?広告を開始できるタイミングについてご理解していただけたでしょうか?
いくつか法律の規制が適用されないパターンがありましたので、改めて列挙しておきます。
- 青田売り
- 工事が完了した物件
- 建築基準法の変更の確認の申請を提出中に当初の確認の内容で広告を継承すること
- 建築基準法の変更の確認の申請を提出している間、または提出を予定している場合において、変更の確認を受ける予定である旨を表示し、かつ、当初の確認の内容もその広告に合わせて表示して、変更の確認の内容を広告すること。
- 建築確認を受けたプランと受けていないプランを併せて示すセレクトプラン方式において、建築確認を受けていないプランについて変更の確認が必要である旨を表示する場合
- 予告広告のうち、開発許可、建築許可等を受けていないことを明示しており、かつ、具体的な形状、構造等を示さないものは販売予定である旨明示した場合
- 企業イメージの形成やその向上を図るための広告のように、直接に販売や販売予約につながらない抽象的なもの
ぜひ参考にしてみてください。