宅建業法が定める「事務所」とはどんな場所のことなのか?行政書士が解説します!

宅建業免許を受けようとする場合、事務所の設置が必須になります。ここで言う事務所とは、一般的な事務スペースのことではなく、宅建業法で定められた「事務所」のことになります。

宅建業において事務所とは、免許権者(申請先)を決める要素にもなっており、その概念はとても重要な意味をもっています。

よって、宅建業者の方やこれから宅建業をはじめようという方にはぜひ理解しておいていただきたい部分です。

そこで今回は、宅建業法が定める「事務所」とはどのような場所のことをいうのか解説していきたいと思います。

宅建業者にとって事務所はとっても重要!

前述のとおり、宅建業者の事務所はその所在する場所(都道府県)や数によって免許の種類や免許申請などの窓口が決まることになるため、とても重要な要素になります。

宅建業法3条1項(抜粋)

宅地建物取引業を営もうとする者は、2以上の都道府県の区域内に事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならない。

このほか、宅建業者には事務所を基準とした次のような義務が存在します。

事務所を基準とした義務
  • 事務所ごとに専任の取引士の設置義務
  • 事務所の数に応じた営業保証金の供託

専任の取引士の設置義務

ここでは詳しい解説は省きますが、宅建業者は事務所ごとに専任の宅地建物取引士を設置しなければなりません。

宅建業法31条の3 1項(抜粋)

宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない。

事務所の数に応じた営業保証金の供託

さらに、宅建業者は事務所の数に応じた営業保証金の供託が義務付けられています。

宅建業法25条1項・2項(抜粋)

1項 宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない。
2項 前項の営業保証金の額は、主たる事務所及びその他の事務所ごとに、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して、政令で定める額とする。

重要なのは分かったけど、結局のところ事務所とはどういう場所なの?

あらためて事務所の重要性を理解していただけたと思いますので、ここから本題にもどります。

宅建業法が定める事務所は、宅建業法施行令にその答えがあります。

宅建業法施行令1条の2 1項・2項(抜粋)

法第3条第1項の事務所は、次に掲げるものとする。
1項 本店又は支店
2項 継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの

つまり、宅建業法で定める事務所は次の3つということになります。

宅建業法の定める事務所
  1. 本店
  2. 支店
  3. 継続的に業務を行うことができる施設

※組合、一般社団法人、一般財団法人などの場合は、本店・支店は主たる事務所・従たる事務所となります。

まだまだ抽象的ですので、さらに詳しく読み解いていきましょう。

本店

商業登記簿上に記載された本店のことで、たとえ宅建業を行っていなくても常に宅建業法の事務所に該当すると解釈されています。

個人事業主はどうなる?

商業登記がない個人事業主はどうなるのかというと、その個人事業主の営業の本拠が本店に該当するとされています。

支店

支店は、商業登記簿に登記されているもののうち、少なくとも次の3つの条件を満たすものが宅建業法における事務所に該当すると考えられています。

事務所(支店)の条件
  1. 支店は本店と同一商人であること。
  2. 支店自体が営業所としてある程度独立して営業活動ができること。
  3. 本店に経済的に従属していること。

しかしながら、「少なくとも」とか「ある程度」といった微妙な表現が含まれていることから、参考程度の判断基準と考えた方がよさそうです。

なお、宅建業を行っていない支店や継続的に宅建業者の営業の拠点となる施設としての実態を備えていない支店は事務所として取り扱わないこととされています。

逆に言うと、宅建業を営業している支店が登記されていなくても、継続的に宅建業者の営業の拠点となる施設としての実態を備えていると解釈される場合は事務所に該当するということになりますので、登記の有無だけでは判断できないと覚えておいてください。

継続的に業務を行うことができる施設

継続的に業務を行うことができる施設とは、宅建業者の営業活動の場所として継続的に使用することができるもので、社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えたものとされています。

実務上は写真で判断する!

社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えたものとはどのようなものなのかは、法令に定められておらず、実務上は事務所の写真で判断されています。

主に写真で確認される事項は、デスク、、いす、パソコン、電話機、FAX機、コピー機、宅建業免許状、本棚、応接スペースなどの有無です。一般常識で考えて事務仕事や接客ができる場所かどうがで判断されます。

さらに実務上は独立性が必要!

実務上は事務所の独立性が求められており、テント張り、ホテルの一室、仮設の建物は事務所として認められていません。

また、共有スペースも事務所とは認められず、建物の入り口から事務所まで独立している必要があります。例えば、自宅敷地内の離れで出入口から直接事務所スペースに出入りできる部屋や、アパートの一室(共有通路、ロビーの通行はOK)は事務所として認められます。

一方、他の事業者が入居しているビルのフロアの一室を間借りしているような場所は、独立性が保たれているとは言えず事務所として認められません。

契約を締結する権限を有する使用人とはだれか?

契約を締結する権限を有する使用人とは、原則として、継続的に業務を行うことができる施設の代表者等が該当すると解釈されており、取引の相手方に対して契約締結権限を持つ者が該当するとされています。

この契約締結権限というのは、自らの名において契約を締結するか否かは問わないとされているため、支店長や支配人に相当する者がこれに該当すると考えられます。

まとめ

いかがでしょうか?宅建業法が定める「事務所」がどのような場所を意味するのかお分かりいただけたでしょうか?

ざっくりまとめると、宅建業法の事務所とは、

・登記されている本店(宅建業を営業しているかどうかは関係なし)
・登記されている支店(宅建業を営業しているものに限る)
・社会通念上、独立した事務所として認識できる場所(契約を締結する権限がある者がいること)

ということになります。

自宅の2階の部屋を事務所にできないか?と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、これはできませんので誤解のないようにしてください。