宅建業を営んでいる方なら、自己の業務について「広告を出してみようかな?」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。もしくは、すでに広告を出しているという方もいらっしゃるかもしれません。
宅建業法では、宅地建物の取引や宅建士についてだけではなく、実は広告の内容(誇大広告等の禁止)、広告のタイミング(広告の開始時期の制限)についてのルールが定められているのをご存じでしたか?
さらには、宅建業界独自の広告のルール(不動産の表示に関する公正競争規約)というのも存在しており、宅建業者は広告を出す場合においてもこれらのルールに違反しないよう注意しなければなりません。
そこで今回はまず、広告の内容に関するルールである「誇大広告等の禁止」について取り上げていきたいと思います。
まずは条文を確認しよう!
宅地建物取引業者は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地又は建物の所在、規模、形質若しくは現在若しくは将来の利用の制限、環境若しくは交通その他の利便又は代金、借賃等の対価の額若しくはその支払方法若しくは代金若しくは交換差金に関する金銭の貸借のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。
広告の対象が宅地や建物は、一般の購入者にとって貴重な財産であるはずですから、宅地建物の広告が正しく事実を表していることはとても重要なポイントです。
そこで宅建業法では、誇大広告や虚偽広告によって購入者などを欺いて契約を結ばせ、その結果、購入者などに不測の損害を生じさせる事態を未然に防ぐための規定が設けられています。
「誇大広告等」の範囲
誇大広告とは、顧客を集めるために売る意思のない条件の良い物件を広告し、実際は他の物件を販売しようとする、いわゆる「おとり広告」および実施には存在しない物件等の「虚偽広告」も含まれるされています。
おとり広告
おとり広告とは、売る意思のない物件や売ることができない物件について広告を行い、客が来ると「その物件はすでに売れてしまった。」と称して、他の物件を紹介しこれを押し付けるものをいいます。
例えば、インターネット広告の削除し忘れも「おとり広告」に該当しますので注意が必要です。
規制の対象となる広告
規制の対象となる広告の媒体は次のとおりです。
- 新聞の折込チラシ
- 配布用のチラシ
- 新聞
- 雑誌
- テレビ
- ラジオ
- 立看板
- ウェブサイト など
上記に限らず、どのような方法によるものであっても規制の対象となります。
規制の対象となる表示内容
規制の対象となる広告の内容は次のとおりです。
- 所在
- 規模
- 形質
- 現在または将来の利用の制限
- 現在または将来の環境
- 現在または将来の交通その他利便
- 代金、借賃等の対価の額またはその支払方法
- 代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせん
それぞれ具体的に確認していきましょう。
所在
地番、所在地、位置図等により特定される取引物件の場所。
規模
宅地や建物の個々の面積および間取り。個々の物件に限らず、宅地分譲における分譲地全体の広さや区分所有建物の全体の広さ、戸数等も含まれる。
形質
取引物件の形状および性質のこと。
土地の場合
地目や飲用水、電気、ガスの供給施設あるいは排水施設等の整備状況
建物の場合
その構造(木造・石造・コンクリートブロック造などの区別、平屋建・二階・三階建等の階数など)、新築・中古の別、適している用途
現在または将来の利用の制限
取引物件に係る現在または将来の公法上の制限と私法上の制限
公法上の制限
都市計画法による都市計画制限、建築基準法による用途制限・建ぺい率制限・容積率制限、農地法の転用制限など。
例えば、「近い将来に市街化調整区域から市街化区域へ見直しがされ、現在は不可能な建築行為が近い将来に可能になる。」といった表示は×。
私法上の制限
地上権、地役権、永小作権などの用益物権。
現在または将来の環境
取引物件である宅地建物の周辺の状況のこと。静寂さ、快適さ、立地条件、デパート・コンビニ・商店街・学校・病院や公共施設などの整備状況。
例えば、客観的な根拠がないのにも関わらず、「大規模ショッピングセンターが建設される。」といった広告表示をすると虚偽広告となる。
現在または将来の交通その他利便
都心や副都心などの業務中心地に出るために利用する交通機関の便利さのこと。路線名、最寄り駅・停留所までの所要時間、建設計画など。
例えば、根拠なく「新幹線や高速道路の建設計画がある。」といった表現は×。
代金、借賃等の対価の額またはその支払方法
現金一括払い、割賦払い、頭金、支払回数、支払期限など。
代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせん
金銭の貸借のあっせんの有無または貸借の条件。融資を受けるための資格、金利、返済回数、金利の計算方式など。
宅建業法の誇大広告等にあたらない広告の例
前述の規制にあてはまらないものは、宅建業法上の誇大広告等には該当しないことになります。例えば、次のような広告です。
- 有名業者と類似した名称を使って広告をし、購入者等を欺むこうとする広告。
- 代理または媒介によって取引しようとしているにも関わらず、「地主直売」などの虚偽の内容の広告。
「著しく事実に相違する表示」について
「著しく事実に相違する表示」と認められるものとは、上記の規制の対象となる広告媒体および広告内容について、一般購入者等において広告に書いてあることと事実との相違を知っていれば当然に誘因されないものをいい、単に事実と表示との相違することの度合いが大きいことのみで判断されるものではないとされています。
例えば、市街化調整区域に所在する物件を市街化区域と表示した場合、建築後10年を経過した建物を築1年と表示した場合地目が農地である土地を宅地として表示した場合は「虚偽広告」に該当することになります。
「著しく」の意味
広告表示と事実との相違のすべてが宅建業法違反になるのではなく、広告表示と事実との相違または優良・有利であると広告表示による誇張を一般購入者が知っていれば、当然に誘因されることがないと認められる程度の相違または誇張が誇大広告等に該当すると考えられています。
また、広告の掲載内容の一つ一つは「著しい」に該当していなくても、それが多数存在することにより、それら集号された誇大広告等の存在によって購入の重要な動機付けがなされる場合は、全体的に「著しい」とみなされる場合もあります。
おとり広告は「著しく事実に相違する表示」になる!?
おとり広告は、広告において売買すると表示した物件と現実に売買しようとする物件とがまったく別のものになるため、著しく事実に相違する広告に該当し、虚偽広告になると考えられています。
「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」について
「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」と認められるものとは、上記の規制の対象となる広告媒体および広告内容について、宅地建物についての専門的知識や物件に関する実際の情報を有していない一般購入者等を誤認させる程度のものを言うとされています。
例えば、「駅まで1kmの好立地」と広告に表示されてるが、直線距離では駅まで1km程度であるものの、実際の道のりでは4kmある場合、駅までの道のりが1kmであると一般の購入者を誤認させるような表示であるので、「誇大広告」に該当することになります。
定期借地権設定契約・定期建物賃貸借契約の代理、媒介について
借地借家法に定められている定期借地権を設定する契約または定期建物賃貸借契約についての代理、媒介に係る広告を行う際において、次に該当する場合は、「宅地建物の現在もしくは将来の利用の制限」に係る誇大広告等に該当する可能性がありますので、ご注意ください。
- 通常の借地権または建物賃貸借契約であると人を誤認させるような表示をした場合
- 定期借地権または定期建物賃貸借契約の内容(期間、賃料など)について、著しく事実に相違する表示をし、または実施のものよりも著しく有利であると人を誤認させるような表示をした場合
誇大広告等の規定に違反した場合の罰則
誇大広告等を行った宅建業者に対しては、監督処分として指示処分のほか、業務停止、情状が重いときは免許取消処分の対象となります。
さらに、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金に処されることがあります。
まとめ
おつかれさまでした。かなりのボリュームとなってしまいましたが、広告ルールについてご理解いただけたでしょうか?
今回は、あくまで宅建業法上の広告の規制についてご紹介しましたが、虚偽や誇大な内容の広告は、宅建業法によって宅地建物の取引の公正を確保する観点から規制されているばかりでなく、不当景品類及び不当表示防止法により公正な競争を確保する観点からも規制が行われていることはお忘れのないようにしてください。
繰り返しになりますが、インターネット広告の消し忘れが「おとり広告」に該当する点については、悪意がなくても宅建業法違反になってしまう恐れがあるため特に気を付けていただきたいです。