自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限

あなたは、民法において他人が所有している者を売買することが認められていることをご存じでしょうか?

他人の物を勝手に売買するなんて違和感を感じるかもしれませんが、例えば、明日発売のマンガを次の日に友達に売る約束を事前にするなんてことは実際にあるかと思います。

このように民法では、他人の物を売買する契約も有効な契約であるとしています。
(※同時に売主は目的物の所有権を取得して買主に移転する義務を負う。)

民法561条(抜粋)

他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

ちなみに、売主が所有権を取得して買主に移転できない場合は、買主は契約の解除、損害賠償請求をすることができることになっています。

実際の宅地や建物の取引については、売買契約後に売主が所有権を取得することができなかった場合に、売買契約の解除や損害賠償請求によっても買主が救済されないおそれがあり、社会的にも多きな問題となる可能性があります。

そこで宅建業法では、消費者保護の観点から宅建業者が自己の所有に属しない物件を売却する行為を原則として禁止しています。

今回は、宅建業者の「自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限」について解説していきたいと思います。

自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限と制限の範囲

まずは条文を確認しましょう。

宅建業法33条の2

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。

「予約」も含まれる点に注意!

禁止の対象になっているのは売買契約ですが、この売買契約には予約も含まれると考えられています。

これは、予約も契約の一種であって、当事者間において将来本契約を締結するという法的拘束力を生じさせ、その段階で申込証拠金や手付金などの金銭にやりとりが発生することもあるため、消費者保護の観点から自己の所有に属しない物件の売買の予約も禁止しているというわけです。

制限の範囲

次の場合には、そもそも制限が適用されません。

制限されないケース
  • 業者間の売買であるとき
  • 売主が宅建業者以外の者であって、宅建業者がその売買を媒介する場合

これは、制限の目的が個人消費者の保護のためであるからです。

「自己の所属に属しない」の意味

「自己の所属に属しない」とは、宅地建物の所有権が他人に属する場合と、未完成の場合があります。

所有権が他人に属する場合

宅地建物が売主本人と第三者の共有の場合も、ここでいう他人に属する場合に含まれます。

また、不動産登記に公信力がなく対抗要件に過ぎないことから、売主が登記簿上の所有名義人であっても、実質的には無権利者であることもあり得ます。この場合も他人に属する場合に含まれます。

公信力がない

不動産登記に記載されていることが公には信用できないものということ。例えば、土地の所有権がA→Bへ移っていたとしても、登記上がAのままになっていることがあります。

このとき、登記を信じてAが所有者であると判断したCがAから土地を買ってしまった場合(Aが二重売買)、原則としてCは保護されないという考え方を日本では採用しています。

登記が対抗要件

買主は登記を自分名義に変更しなければ第三者に対して自己の所有者を対抗できないということ。

例えば、真の所有者がBであるとき、登記を信じてAが所有者であると判断したCがAから土地を買ってしまった場合(Aが二重売買)、Cが登記を変更して登記上所有者になれば、CはBに対して所有権を主張することができるということです。

未完成の場合

未完成物件の売買のように、現在の所有権の帰属を議論することが不可能な場合も「自己の所有に属しない」に該当します。

適用除外となるケース

他人の物件の売買の禁止は、一般消費者の保護がその趣旨であって、円滑な商取引全てを規制する趣旨ではないため、これに該当しない取引には適用除外が認められています。

次のような場合は適用除外となります。

適用除外ケース
  1. 所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得する契約を締結しているとき(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く)。
  2. 所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得できることが明らかな場合。
  3. 未完成物件の売買で手付金等の保全措置があるものの場合

1.所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得する契約を締結しているとき

例えば、A所有の物件について、業者Bがその所有権を取得できることが明らかな場合には、業者Bはその物件を一般消費者Cに売却する契約を締結することは禁止されないということです。

これは、業者BがAから物件を取得できなくなってB-Cの契約が履行できなくなることは考えにくく、業者Bも一般消費者Cに対して他人の物件を売りつけるといった悪質な動機は持っていないと考えられるからです。

なお、このときA-Bの契約の存在は業者Bが立証しなければならないものであるため、書面による契約であることが望ましいとされています。

予約も含まれる

売買の予約契約は当事者の一方が予約完結権を行使した場合に売買契約として法的拘束力を有するため、売買の予約契約を締結している場合も適用除外となります。

その効力の発生が条件に係るものは適用除外にならない

その成就によって契約の効力が発生するような条件は、「停止条件」と呼ばれるのですが、これは成就するかどうかが不確実であるため適用除外とされていません。

例えば、農地法5条許可を条件とした宅地見込みの農地の売買契約については、許可権者の許可の前には効力が生ずることが法的に担保されていないため、許可が下りないうちに一般消費者との間で売買契約を締結するのは適用除外にならない、つまり禁止ということになります。

ちなみに、冒頭でご説明したとおり業者間取引には適用されないため、農地法の許可を申請している段階であっても業者間で売買契約を締結することは可能です。

2.所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得できることが明らかな場合

具体的には次のような場合です。

4つのケース
  • 都市計画法の開発許可を受けた宅建業者が、公共施設の敷地で国または地方公共団体の所有に属するものの所有権を同法の規定に基づき取得する場合。
  • 新住宅市街地開発事業の施行者である宅建業者が、公共施設の敷地で国または地方公共団体の所有に属する者の所有権を新住宅市街地開発法の規定に基づき取得する場合。
  • 土地区画整理法の規定に基づき、土地区画整理事業の施行者は取得する保留地予定地を宅建業者が取得する契約を締結している場合。
  • 不動産登記法の「第三者のためにする契約」+「他人物売買」方式によって直接移転取引がなされる場合。

3.未完成物件の売買で手付金等の保全措置があるものの場合

売主となる宅建御業者が手付金等の保全措置を講じている場合、または手付金等の保全措置を講じなくても未完成物件を売却することができる場合には適用除外となります。

なお、未完成の宅地建物についての広告の開始時期の制限および契約の締結時期の制限は適用されるのでご注意ください。

手付金等の保全措置を講じなくても未完成物件を売却することができる場合

手付金等の保全措置を講じなくても未完成物件を売却することができる場合とは、手付金等の額が代金の5/100以下、かつ1,000万円以下の場合のことです。

違反に対する罰則

自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限に反して契約を締結した場合、監督処分として指示処分のほか、1年以内の業務全部または一部の停止を受ける可能性があります。

また、情状が重たいときは、免許取消処分の対象となります。さらに特に悪質な場合には刑法の詐欺罪にあたる可能性もあります。

まとめ

いかがでしょうか?

制限が適用される(禁止される)ケースと、適用除外(禁止されない)のケースの違いが複雑なのであらためてまとめたいと思います。

×適用される場合
  • 宅建業者が一般消費者に対して自己の所有に属しない物件を売却する行為
  • 宅建業者が一般消費者に対して行う農地法5条許可を条件とした宅地見込みの農地の売買契約
〇適用除外
  • 業者間で自己の所有に属しない物件を売却する行為
  • 売主が宅建業者以外の者であって、宅建業者がその売買を媒介する場合
  • 所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得する契約を締結している場合
  • 所有権が他人に属する場合で、宅建業者がその宅地建物を取得できることが明らかな場合
  • 未完成物件の売買で手付金等の保全措置がある場合
  • 業者間で行う農地法5条許可を条件とした宅地見込みの農地の売買契約

参考にしてみてください。