宅建業者は宅地建物の売買または交換に関する媒介契約をしたときは、契約内容に関する一定の事項を記載した書面を作成して依頼人に交付しなければなりません。
この書面の記載事項のなかに、物件を「売買すべき価格」(売買の場合)や物件の「評価額」(交換の場合)があります。
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額
宅建業者はこれらの価格について意見を述べる際には、その根拠を明らかにしなければならないことになっています。
そこで今回は、宅建業者が媒介契約を締結した場合に、価格について意見を述べる際の根拠の明示について解説していきたいと思います。
代理が民法に定められているのに対し、媒介は民法に定められておらず、宅建業法においてその規制が行われています。 媒介は宅建業界において最も多く採用されている取引形態であるため、もしあなたが宅建業者であるならば、必ず理解して …
なぜ根拠を明示する必要があるのか?
宅建業者が媒介をしようとするときの売出し価格を決定する際、通常は業者が依頼人の希望価格に対してアドバイスをして売出し価格を決定することになります。
つまり、依頼人の希望価格、業者の査定価格、調整結果の売出し価格があり、依頼人に交付すべき書面にはこのうちの売出し価格を記載することになるわけですが、このとき一般消費者は宅地建物についての知識が浅いため、業者側の査定価格が大きな影響を持つことになります。
業者の物件価格の査定は従来、業者の経験や勘に委ねられてきたため、業者によって言い値が異なることが多く、一般消費者の信頼を失うといった事態が起こっていました。
このため、昭和55年の法改正で媒介契約の内容の明確化、専任媒介契約についての規制を行うのに伴い、媒介を行う業者側が物件価格の査定を行うときはその根拠を明示することを義務づけられることになったわけです。
何を根拠にしたらよいのか?
では、一体どのようなものを根拠をして利用することができるのでしょうか?
根拠は査定した価格について合理的な説明がつくものでなければなりません。そこで、例えば公益財団法人不動産流通推進センターが作成した「価格査定マニュアル」または、これに準じた価格査定マニュアルに基づいて算出した価格が適当であると考えられています。
また、同種の取引事例などほかに合理的な説明がつくものがあれば、それも根拠として認められるとされています。
公益財団法人不動産流通推進センターの「価格査定マニュアル」(令和6年現在)
価格査定マニュアルは、公益財団法人不動産流通推進センターのホームページからたどりつくことができます。
画像をクリックするとホームページへリンクします。
動画による案内もありますので参考にしてみてはいかがでしょうか。
根拠の明示方法
根拠の明示方法は口頭でも書面でもよいこととされていますが、書面の用いるときには、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価ではないことを明記するとともに、他の目的に利用することがないように依頼人に要請することが重要です。
価格査定に指定流通機構(レインズ)を利用する場合の注意点
宅建業者が媒介価格について評価を行う手段として、指定流通機構(レインズ)の成約データから同種、類似の取引事例を使用することも考えられます。
このとき、取引事例のなかには依頼人の個人的な秘密にかかわるものが含まれている可能性があり、宅建業者等に課されている秘密を守る義務に反する恐れがあります。
宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなった後であっても、また同様とする。
宅地建物取引業者の使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、宅地建物取引業の業務を補助したことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業者の使用人その他の従業者でなくなった後であつても、また同様とする。
よって、次のような行為は許されないと解されています。
- 取引事例を査定額の根拠として明示する以外の目的で使用すること。
- 価格の査定を行うためには不要と考えられる取引の当事者の氏名などの情報について収集を行うこと。
- 営利を目的として取引事例の収集伝達の事業を営むことおよびこれを行う者に取引事例を漏らすこと。
- 取引事例のデータを宅建業者以外の者に利用させること。など